第22章 遙
朝食を済ませた志摩子は、縁側で日向ぼっこを始めていた。今日は千鶴がほとんどの家事を済ませてしまったらしく、志摩子はやることがなくなっていた。千鶴は朝から永倉達に連れられ町へと出ていた。
「おい志摩子。ちょっといいか」
「はい……?」
振り返れば、腕を組んだ土方が髪を下ろした姿で立っていた。志摩子が瞬きを繰り返し彼を見る。よく見てみれば、土方の髪は濡れていて肩には手ぬぐいがかかっていた。
「なんて恰好でうろついているのですか! ほら、まだそんなに髪が濡れているじゃないですか」
「あ? だからどうした」
「そのままでは風邪を引いてしまいますよ」
志摩子は立ち上がり土方から手ぬぐいを奪い去る。
「さあ、此処に座って……!」
「なっなにすんだいきなり!」
土方を縁側に座らせると、志摩子は後ろから手ぬぐいで彼の髪を拭く。わしゃわしゃとするものだから、土方は明らかに嫌がって暴れ始める。
「歳三様っ、動かないで下さい」
「もう乾いてるから大丈夫だって! 心配性か」
「貴方にだけは言われたくありません」
「……良い性格してんじゃねぇか」
土方が口元をひくつかせ、軽く志摩子を睨み付けた。
ようやく志摩子が拭き終えると、土方はぶつぶつ文句を言いながら髪を結う。綺麗な黒髪が陽に晒されながら風に揺れる。きっと後ろから見れば綺麗な髪をした女の後ろ姿にしか見えないのかもしれない。そう志摩子は思っていた。