第21章 真
「……約束の新月の日。迎えに来たぞ、志摩子」
前方の霧の中、すっと一人の男が姿を現す。そう、志摩子の兄である栄だった。栄は興味深そうに顎に手をあてると、楽しそうに二人を見つめていた。
「初めて聞いたな、志摩子のそんな悲痛な願い。うん、きっと外の世界でなければ得ることのなかったものなのだろうな」
「……来やがったか、蓮水栄」
「お前は確か、新選組の副長とやらだな。志摩子に接吻をするとは、余程俺に斬られたいらしい」
静かに栄が腰の刀を抜く。土方も志摩子を背後に庇い、刀を抜いた。土方の目を見た栄が、ふと呟く。
「ああ、お前の目……いいな。守る者がある強い目をしている」
「当たり前だろう。……てめぇに志摩子は渡さねぇ。とっとと帰りやがれ」
「……そういうわけにも、いかぬ!」
剣を交え始める。型にはまらない栄の剣技と、正統派の土方の剣技。どちらも劣ることなく、刃を受け止め刀を振り下ろす。
「志摩子の意思など、俺には関係ない。蓮水の繁栄のため、女鬼は貴重だ。風間の坊主が志摩子を我儘に付き合わせるというならば、俺は志摩子のために連れ帰る義務がある。それが兄というものだろう?」
「はっ! 笑わせるなっ! そうやって志摩子を閉じ込めていたのは、てめぇだな!? 志摩子にだってな……人並みに自分の人生を自由に生きる権利があるんだよっ!」
「人並みに……。俺達は鬼だ、人間と同じ生き方など出来ない」
「どんな言葉で誤魔化したってな、鬼だろうが人間だろうが関係ねぇんだよっ!」
土方の重い一撃が栄を襲う。煩わしそうに受けると、栄の瞳がみるみるうちに赤く染まり髪は白髪へと変わっていく。