第21章 真
壊れた櫛、冷たい体温、ぬくもりはそこにある……けれど。
「……歳三……様」
「だからって、何かを望むだとかお前をどうしようだとか、そんなつもりはねぇ。ただ……」
志摩子は強引に土方を押し退けると、酷く傷付いた顔で彼を見る。土方が伸ばした手さえ、彼女は唇を噛み払いのけた。
「何の……ご冗談ですか? 気でも、触れたのですか……?」
「そう、見えるのか」
「はい……見えます。私の知る歳三様は、いつも気高く凛と張りつめていて……新選組のためにと常に厳しく在られる方です。たった一人の女に、このような行為を強いる人ではないはずです」
「そうか」
「だから、私のことをからかっていらっしゃるのでしょう? そう……仰って下さい」
「ならばそうだと言えば、お前は納得するというのか。ただの気まぐれだったと、気が触れただけだと……俺がそう言えば、お前は納得するのか」
くだらない、と土方は鼻で笑った。
志摩子が払った土方の手は、ほんのりと赤みを帯びていた。確かな拒絶。灰色の雲のように、土方の瞳は曇りつつあった。そこに光はない。
「お前のいう俺とは、なんだ。お前の見ている俺は……本当の俺か? それが土方歳三という男だと、お前は本気で言えるのか」
「……それは」
「お前は何もわかっちゃいねぇよ。何も……わかろうとさえしていない。志摩子、お前が見て来た俺はな……結局は外側でしかないんだ」
土方の声が響く。だんだん、祭囃子の音も志摩子には聞こえなくなってきていた。触れ合った唇は、焼け付くように熱を持つ。まだ感触が残っている気がして、志摩子は唇をぐっと噛んだ。