第20章 蝶
「行くぞ志摩子っ!!」
「え!? えっ、ちょっと!!? 平助様!?」
突然藤堂に手を引かれ、勢いよく屯所内を走り抜けた。
「あ、こら平助!! こんの馬鹿野郎がっ!!!」
襖を開けて、土方の怒声が飛ぶ。まずい……! 志摩子の額に冷や汗が滲むが、藤堂に誘導されるままに二人は見事屯所を飛び出すことに成功した。
藤堂は悪戯が成功した子供のように、嬉しそうに志摩子の方を一瞥した。
「どうだ志摩子! 鬼の土方さんを出し抜いてやったぜ!!」
「あ、後でお叱りを受けますよ!?」
「いいんだよ。俺が土方さんから、お前を守ってやるから!」
「……っ」
二人が向かう方向から、どんどん祭囃子の音が近付いて来る。町を彩るぼんぼりの淡い光が、きらきらと輝いてい見えた。
「凄い……っ」
思わず志摩子は息を呑む。
「へへっ、凄いだろ? たぶん今頃新ぱっつぁんと左之さんは千鶴を連れて、一足先に祭りを楽しんでると思うぜ」
「そうなのですか? 通りで朝から千鶴様の姿を見かけないと思いました。ですが……本当に出てきてしまって、よかったのですか?」
「お前のお兄さんの件だっけ? まぁ、いんじゃねぇの?」
「……」
あまりにも適当な藤堂の言葉に、志摩子はきょとんとするしかなかった。にかっと笑う藤堂が、とても逞しく見えた。