第20章 蝶
「やべぇ! おい、志摩子聞こえるか!? 外の祭囃子!!」
巡察から戻って来た藤堂は、興奮気味に志摩子に祭りの様子を話す。新選組は祭りに最中に問題が起きない様に、交代で警備することになっていた。
「おかえりなさいませ、平助様。凄い人だかりだったのではないですか?」
「もう凄いのなんの! 勢いも凄いんだぜっ。絶対志摩子見に行った方がいいよ! なっ!? 俺が土方さんに頭下げて、頼んできてやるから」
「で、でも……」
志摩子は苦笑いを浮かべ、言葉を濁した。それもそのはず、今日は問題の新月。祭りに行きたい気持ちはあったものの、これから起こるかもしれないことを考える。とてもじゃないが行きたいなどと、土方に言えるはずもなかった。
「もしかして、人混みは苦手か?」
「いえ、そんなことはないですよ。賑やかな場所は、いるだけで楽しいので嫌いではありません。確かに静かな場所の方が好きではありますが……」
「でも祭りってのはな、一年に一回今の時期だけなんだ。絶対見なきゃ損だ!! ちょっと待ってろ!!!」
「あ、平助様!?」
嬉しそうに廊下を走っていく藤堂を、引き留める志摩子の声はどうやら彼には届いていないらしい。仕方ないと、その場で作業をしながら藤堂の帰りを待っていた。
すると、暫くして肩を落とした藤堂が戻って来た。
「平助様、どうでしたか?」
「……駄目だった。なんでだよ……土方さんの鬼」
「ふふっ。歳三様なりに気遣って下さってるのかもしれません」
「何処か!? お前だってあの祭囃子の音、聞こえるだろ!?」
「聞こえますけど……」
「……よし、もう決めた」
「平助様?」
藤堂はずいっと志摩子に詰め寄ると、にっかりと笑みを浮かべた。途端、志摩子の中で嫌な予感がした。