第19章 道
「あれ……?」
途端、横で同じく空を眺めていたはずの志摩子が沖田の肩へ凭れ掛かる。何事かと思えば、規則正しく呼吸しながら眠りこけていた。
「……志摩子ちゃんでも、うたた寝することってあるんだ」
くすっと笑いながら、そのまま起こすこともせず肩に彼女の重みを感じながら、沖田は一人空を眺め続けていた。
「僕ってずるいよね、自分の病気を理由に君をこうして縛り付けている。君が本当に傍にいたい人は……僕じゃないだろうにね」
沖田はそっと……誰にも気づかれない様に、志摩子の額に口付けた。
「どうすれば僕は、志摩子ちゃんと一緒に生きていけるのかな? 僕がこんなんじゃなかったら……君の瞳に、僕は……映してもらえるのかな」
彼の言葉は、隣に志摩子にも誰にも届かない。いや、届いてはいけない。彼はそれを、望んではいないからだ。言葉にすることで、今の自分を押さえ付けていた。もどかしさ、苦しさ、ただ刀を振るうことなく生きてしまっている自分。
意味を求めて、足掻くように、そして溺れていく。
「君と生きたいと望めば望むほど、僕は……死にたくないって思うんだ。死ぬのが怖いなんて、変な話しだよね? いつ死んでもおかしくないところで、ずっと生きて来たのに。こんなの……おかしい……ごほっ」
肩を震わせ、咳込む。掌に広がる赤を見つめながら、沖田は自嘲気味に笑った。
「生きていたい……生きて、いたい……君と……」
滴り落ちる血が、何もかもを赤く染めて彼の未来を塗り潰そうとしていた。