第19章 道
「あ、ねぇ志摩子ちゃん。あの雲、綿あめみたいじゃない? お祭りとか、連れて行ってあげたいな。ほら、夏だし。そろそろ京の都一番のお祭りが始まるよ」
「都でも、お祭りはあるのですね」
「寧ろ都だからじゃない? わりと大きな祭りだよ。早めに土方さんに許可を取っておいた方がいいよ」
「総司様はお祭りに行かれないのですか?」
「僕? うーん……出来れば君を僕が連れて行ってあげたいけど、それは僕の役目じゃないしなぁ」
「……?」
「よくわからないって顔だね。あはは、別にわからなくていいよ。今はまだ」
「そのお祭りはいつごろ行われるのしょうか?」
「そうだな……確か、次の新月の日じゃないかな」
志摩子はぴくりと反応し、口を閉ざした。
――新月の夜。
栄が志摩子に告げた、迎えに行くと残した日。まさか重なってしまうなんて、誰が予想できただろうか。いつまでも口を開かない志摩子を不審に感じたのか、沖田が「志摩子ちゃん?」と彼女の顔を覗き込んだ。
「どうしたの、急に黙り込んで」
「……あ、いえ。なんでもないんです。お祭り、楽しみです」
「うん、お土産に綿あめ買ってきてね」
「ふふ、わかりました」
日差しを避け、木陰で空を眺めながら志摩子はこれからのことを考え始める。
彼女が新選組に来て、もう随分と時が経ち始めようとしていた。変わらないものもあれば、変わったものもある。望まない未来、望んでいた未来、求めた明日はこの先あるのか。
様々な心と人に触れ、志摩子の心はかつてない程に揺れ動いていた。
自らの運命、血筋、家柄、鬼という存在。どの道新選組の彼らとは、生きる時間の流れが異なる。けして……同じ時を刻み続けることは出来ないだろう。
迷い、戸惑い、それでもなお志摩子は生まれて初めて自らに問う。
自らの、生きる道を。
ぼうっと空を眺め続けていると、沖田はふと隣から静かな寝息が聞こえて来た気がして咄嗟に横を向いた。