第19章 道
「懐かしいおむすびだなぁ……」
「え?」
「僕達がまだ、新選組じゃなかった頃。飽きるまで道場で稽古をして、疲れた身体を引きずりながら稽古に明け暮れて。そうしていつまでも帰らない僕のところに、土方さんがいつも不恰好なおむずびを三つ持ってきて食ってけって言うんだ」
「そんなことがあったのですね」
「うん。最初は何僕の世話なんて焼いてるんだろうって、突っぱねてたんだけど。あんまりしつこいからさ……仕方なく一つ食べてみたら、無性にこれが美味しいわけ。どうしてか……ちょっとだけ泣きそうになったのを覚えてる」
「きっと、歳三様の想いが込められた優しいおむすびだったのですね」
志摩子も一つ不恰好なおむすびを掴むと、一口食べてみる。少し塩気が強いけれど、温かくて美味しい。先程の一生懸命握っている姿が目に浮かんで、思わず綻んでしまう。
「志摩子ちゃん? にやにやして、どうしたの?」
「にやにやなんてしていませんよ。ただ美味しい、と……そう思っただけです」
「志摩子ちゃんのおむすびの方が、綺麗だし美味しいよ」
そう言うものの、沖田は二人が握ったおむすびを残すことなく食べていった。味噌汁は逆に少しだけ味が薄く、斎藤らしい気がした。
――あ。もしかしたら、歳三様のおむすびの塩加減を知っていたのでは……。
そこに気付いてしまえば、また一段とご飯が美味しくなるものだ。志摩子は美味しそうに食べている沖田を眺めながら、窓から差し込む太陽の光を浴びていた。
暫くして、一息ついた二人は縁側に出て空を眺めていた。