第3章 霧
風間は一人、池田屋の一番奥の部屋から町を眺めていた。そこへ、一人の大柄の男が現れる。
「風間、お一人で都へいらっしゃるとばかり思っていました」
「天霧か……。そうだな、最初はそのつもりだった」
「蓮水志摩子。北国の女鬼でしたね、しかし彼女は根っからの箱入り娘で、武術を一切教え込まれていないと聞きますが」
「ああ、その通りだ」
「危険ではありませんか? 彼女を連れてきたのは」
外は薄らと暗くなり始め、淡い光が灯り始める。小走りで池田屋の方へ走ってくる志摩子の姿を確認すると、風間は立ち上がった。
「蓮水の名は……重い。志摩子は知らねばならない、自分が何者なのか。どういう立場の鬼なのか、俺と共にいれば自ずとわかるだろう」
「まさかそんなことのために、此処まで連れて来たのではありませんよね?」
「志摩子に着いて来るのか、今までと同じように屋敷という名の檻の中で暮らすのか、どちらがいいのか。選ばせてやっただけだ」
「蓮水家の動向、後々探って参ります」
「ああ、何かあれば報告しろ」
「わかりました」
風間は戸を開けて、そのまま部屋から出ていった。一人取り残された天霧は、ぽつりと呟いた。