第2章 風
「どうしたの、もしかして千鶴ちゃんとよく話すようになったお陰で、気さくに女の子に話しかけられるようにでもなったの?」
「総司、茶化すならもっとマシな茶化し方にしてくれ」
「で、その手に持っているものは?」
「……今日の礼だと、みたらし団子を貰い受けた。仲間と共に、食べてくれと」
「へぇ、その子気が利くね。なんて名前?」
「……聞いてない」
「……はい?」
沖田は「嘘でしょ」という顔で斎藤を凝視した。斎藤はなんだか少し、気まずそうに視線を泳がせている。そんな彼の様子に、沖田はぷっと吹き出し笑い始めた。
「あっはっはっ! 何それ、結構長時間一緒にいたのに名前聞かなかったの!? あははっ、一君らしいや」
「総司、それ以上笑うならば……」
「はいはいっ、すみませんでした。いやぁ、でもそうか……名前聞けなかったんだ。そりゃ残念だったね、あんな可愛い子」
「もう会うことはない」
「そうだね」
沈みゆく夕陽を眺めながら、斎藤はぎゅっと袋を握り締めた。