第19章 道
――約束……ね。
沖田がその場を去った後、志摩子は溜息をつきながら庭掃除の続きをしていた。けれど、どうも先程の出来事が頭の中にあるせいか、思ったより作業は進まない。
近くにあった池を覗き込み、自分の顔を見る。
「酷い顔を、していますね。はぁ……これでは総司様を励ますことも出来やしない」
何度目かの溜息をついた後、ゆらりと水面が揺れ自分ではない者の姿が映り込んだ。
「……ッ!」
驚いた志摩子が勢いよく顔を上げれば、池を囲うように置いてある岩の上に一人の男が乗っていた。その男を見るに、志摩子は目の色を変える。
「……嘘、ですよね……?」
「嘘、か。お前は己の"兄"の顔さえ忘れたというのか?」
「……栄、兄様」
「……久しいな、我が妹よ。志摩子」
姿を現したのは志摩子の兄、蓮水栄だった。栄は志摩子を視界に入れると、嬉しそうに微笑んだ。
「風間の坊主のところに、嫁いだと聞いていたが? 違ったのかな。どうなんだ……? 志摩子」
「兄様っ! これには事情が……ッ」
「事情か。いいだろう、だがその事情とやら……蓮水の家にて、ゆっくり聞くとしようか」
「……っ!!」
「敵地に一人で乗り込んでくるとは、余程己の腕に自信があるのか……それとも俺達を舐めているのか。どちらにせよ、見逃すわけにはいくまい」
突如姿を現したのは、斎藤だった。栄と視線を絡め、睨み合う。その状態のまま、斎藤は志摩子を守るように前に一歩出ては彼女を背に隠す。