第18章 病
「総司様……」
「ん?」
「……労咳というのは、本当ですか?」
「……」
ひんやりとした風が、頬を撫でる。沖田はちらりと志摩子に視線を向けるが、すぐに逸らしてしまう。空を眺めては、彼女の言葉に一言も答えようとしない。それは答えられないからなのか、答える気がないからなのか。
沖田は息を吐いて、目を閉じた。
「志摩子ちゃん、抱きしめてもいい?」
「……どうぞ」
「素直だね。嫌になるな」
沖田は手繰り寄せるように、志摩子を抱きしめた。息苦しいくらいに抱きしめられて、痛いと思わず口にしてしまいそうなほどに。けれど志摩子は何も言わず、広くてけれど何処となく小さい背に腕を回した。優しく、撫でながら。
「やっと……見つけたんだ。僕が一番、望むもの。生きていくための確かな理由が。なのに現実って残酷だよね……どうして、なのかな」
志摩子も目を閉じる。彼の言葉を逃がさず耳に入れるために。
「志摩子ちゃん、もっとぎゅってして。離さないで、お願い」
「……はい」
「……一つだけ、僕のお願いを聞いてくれないかな」
「なんですか?」
沖田は志摩子の耳元へと、唇を寄せる。
誰にも聞こえないように。
「……――」
「え……?」
志摩子は思わず顔を上げた。ようやく、今日初めて沖田と目が合ったような気がした。
「約束……ね」
彼の瞳は、虚ろに濁っていた。