第2章 風
「それは先程斎藤様が案内して下さった、甘味屋のみたらし団子で御座います。人数分はないかもしれませんが、どうぞ新選組の方々と召し上がって下さい」
「……貰っても、よいのだろうか」
「はい、是非貰って下さい。本当に今日は、ありがとうございました」
志摩子は深く会釈すると、そのまま笑顔で立ち去っていく。斎藤は志摩子の姿が見えなくなるまで、彼女を見送る。せめて、自分の視界に入っている間くらいは無事に帰れるようにと。
そうして姿が見えなくなったところで、斎藤は踵を返した。
「へぇ、一君って意外と女の子に優しく出来たりするんだ。そういうの、苦手だと思ってたのに」
「……総司か」
物陰から突然、茶髪に軽く髪を上げて留めている男が姿を見せる。彼もまた、浅葱色の羽織を着ていた。
「この新選組一番組組長、沖田総司がなかなか帰らない一君の動向を探っていたら逢引現場に遭遇するなんて思いもしませんでした! ってね。僕の隊も巡察なの忘れてた?」
「忘れるわけがないだろう。巡察は既に終わっている時間じゃないのか?」
「だから、僕は一君が心配だったから探してあげてたんじゃないか。そしたらすっごく可愛らしい女の子と一緒なんだもん。声かけられないよね」
「見ていたのか……」
斎藤は新選組の屯所に帰るべく、足を進めた。沖田もまた彼と共に肩を並べ歩き始める。