第18章 病
朝日を刀身に照らす。斎藤は一人、早朝から庭に出て刀を鞘から抜く。太陽の下に晒した刀は、あろうことか刀身にひびが入っていた。
「……今日は鍛冶屋に行くとするか」
確認だけ終えると、刀を鞘にしまう。庭を出ようとした矢先、洗濯物を抱えている志摩子と鉢合わせになった。
「あ……一様、おはようございます」
「ああ、おはよう。身体はもう、いいのか?」
「はい、お陰様で。ご心配をおかけしました」
「いや……その、本当にすまなかった。俺があの時志摩子をちゃんと守れていたなら、怪我をさせずに済んだ」
「申し訳ありません、私が飛び込んでいったばかりに……一様にそのような思いをさせてしまって」
「お前が謝ることはない。守るべき側にいるはずの俺が、逆にお前に守られてしまった。情けない話だ」
「そんなことはありませんっ! 本当に……一様にお怪我がなくて、よかったです」
「志摩子……」
志摩子は洗濯物籠を一度置くと、斎藤の元へ歩み寄る。その表情は何処か曇っていて、切なげで。斎藤はそっと彼女の頬に触れた。
「そんな顔を、するな。俺は死なない……けして」
「一様が傷付く姿を、私は見たくありませんでした。これは私のわがままです、どうかお許し下さい」
「……許すも何も、お前は何も悪いことなどしていない。でもまさか、お前がそんなことを思っていたとは……」
「私は……怪我などすぐに治ってしまいますから。傷つくことなど怖くないのです」
ふわりと微笑む志摩子は、斎藤にとって儚く咲く花のように思えた。
そのままつぅっと斎藤の指は、志摩子の唇へと滑らせる。親指で撫でると、はっと我に返り斎藤は勢いよく手を引っ込めた。