第17章 月
「志摩子……あんたは」
「……っ」
志摩子はぎゅっと、見られている部分を隠すように自らの身体を抱きしめる。彼女をそうさせているのが自分だとわかると、斎藤は目を逸らし。屯所へ向かい、走り始める。
雲が月を隠すように、互いの心は見えなくなっていく。
腕にある互いの感触は、確かに現実であるはずなのに。何故か何処か遠くのことのように思えてくる。目を合わせることは出来ない、言葉を交わすことも。
今……一体どんな言葉を口にすることが出来るのだろうか。それはきっと……この夜を共にした誰もが、誰かに思っていることであった。
◇◆◇
志摩子を連れ帰った斎藤だったが、そのすぐ後に新選組も勤めを早く切らして帰って来たことにより、志摩子とゆっくり話す余裕はなかった。
斎藤は一旦志摩子を部屋で休ませると、すぐ後に土方に呼ばれたため彼の部屋へと急いでいた。
「副長。斎藤です」
「来たな……入れ」
斎藤は戸を開け、静かに部屋の中へと入る。土方は未だ隊服を着たままだ。
「志摩子の様子はどうだ?」
「……俺が看る限り、そして本人が言う限りでは問題ありません。その……傷自体がどういうわけか、完治しているようでした」
「は……? そりゃどういうわけだ」
「俺も説明を彼女に要求したのですが、今はまだ上手く話せないと」
「……そうか」
「いかがいたしますか?」
「志摩子がそう言うなら、今はまだいい。それに関しては、もう一つ気になることがある」
「それは一体?」
「千鶴のことだ」
そう土方が口にすれば、斎藤は少しだけ表情を変えた。