第17章 月
「羅刹……?」
すると天の傷は、瞬く間に塞がっていく。ありえない光景だ。
「何をぼうっとしているのかな!? お兄さんっ!!」
天が薙刀を構え、特攻する。僅かに反応が遅れたが、間一髪のところで刀身で受け流し避ける。だが今の一撃で、刀身から嫌な音がした気がしたのを斎藤は聞き逃さなかった。
「斎藤ッ!!!」
突如誰かの聞き慣れた声が飛び込んでくる。
刀とは違う、長い武器が斎藤すぐ傍を横切って天へと襲い掛かる。それに気付いた天は薙刀で応戦し、上手く避けた。
「左之か……」
「斎藤! 大丈夫か!? 心配で後を追ってみれば……」
天は原田をじろじろと見つめる。髪と目は元に戻っており、何処か戦意喪失しているように見えた。
「槍使いか……分が悪い。態勢を立て直そうかな」
「お前……何者だ!!」
「槍使い、また何処かで会った時は遊んであげるよ! じゃあね!」
「おい……っ!!!」
天は霧のように消えていった。
原田はほっと息を吐くと、斎藤へと駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
「ああ……大丈夫だ。それより早く、志摩子を屯所に連れて帰らなくては」
「そうだな。俺も一緒に行く、急ごう。斎藤」
「……ああ」
斎藤は刀を鞘に納め、志摩子の元へとやってくる。先程と同じように抱き上げて、ふと気付く。
斎藤の視界に入って来た志摩子の傷があった場所は、まるで天と同じように綺麗に塞がり消えていた。本当に、そこには何も怪我などなかったかのように。辛うじて着物が切れているということだけが、彼女が斬られたのだというただ一つの証拠。
志摩子も斎藤の視線に気付いたのか、彼の視線の先を追いかける。