第2章 風
「思わずあんたに視線を流してしまったと思えば、怪しい男に絡まれているのが見えた」
「それで、あんなにもタイミングよく私を助けて下さったのですね。ありがとうございます」
「いや……まぁ、それはいいんだ」
斎藤はさりげなく襟巻を口元が隠れる高さまで、くいっと上げた。
「ところで、俺で良ければこの都を案内しても構わない。また一人で歩き回って、違う男に絡まれている現場を目撃するのも面倒だ」
「新選組の方は、治安を維持するための方々だというのは本当だったのですね。ですが、お仕事中に……申し訳ないです」
「これも新選組の勤めだと思えば、大した問題ではない。あんたも安全に町を見て回れる、利点はあると思うが」
「……斎藤様が宜しければ、案内して頂けますか?」
「ああ。俺から離れず、着いてこい」
何の運命の悪戯か、志摩子は新選組である斎藤一と共に都を散策することとなった。様々な小物が売ってあるお店や、着物や簪が売っているお店、その他には茶屋など幅広いお店を見て回りながら、都の名物などを斎藤は聞かせながら案内した。
やがて、日が暮れ始めた所で志摩子が口を開いた。
「斎藤様、そろそろ私は連れの元へ戻ろうと思います」
「そうか。そこまで送ろうか?」
「いえ、この場所からなら五分もかかりません。此処でお別れと致しましょう」
「気を付けて帰るといい。出来るだけ、人通りの多いところを」
「はい、わかっております。何から何まで、ありがとうございました。あ、これはほんのお礼です」
「……これは?」
志摩子は斎藤の手を徐に掴んで、何かの袋を握らせそっと離れた。斎藤は袋の中を覗き込んだ。