第17章 月
「斎藤! 何ぼさっとしてる! お前らしくもねぇ、志摩子を連れて此処を離れろ!! 屯所に戻れ」
「副長……っ、しかし俺は!」
「今お前がやるべきことはこいつの相手か? はっ、違うな。お前の剣は、んなもんじゃねぇだろ!!! 頭冷やして来いっ、馬鹿野郎……ッ!!」
「……承知しましたッ」
斎藤はすぐに志摩子の元へと駆け寄る。
「一様……っ」
「……すまない。今は俺と共に来てくれ」
志摩子を抱き上げると、斎藤はその場を離れるように走り出す。勿論風間もそれを追いかけようとするが、土方がそれを許すはずもない。
「おっと、お前の相手は……俺だろう?」
「ふん……っ、いいだろうッ!!」
剣を交える音が背後から響く。斎藤は振り返ることなく城を出て、一気に夜道を駆け抜けていく。二人で駆ける夜は未だ油断できず、怪しさは増す一方。
すると、前方から異様な気配を察知した斎藤は咄嗟に足を止めた。闇が囲う世界の中で、雲が晴れ月明かりが地を照らし始める。
志摩子だけが、その姿に言葉を失う。
「天……、どうして此処に」
「姉様の血の匂いがする。鬼であるボクが、嗅ぎ分けられないとでも? その人……誰」
天は全身を真っ赤に染めて、薙刀を構える。彼の足元には、無数の男達の死体がこっちを見つめながら息絶えていた。