第17章 月
柔らかな唇の感触に、咄嗟に志摩子は目を見開く。眼前に美しい顔が飛び込み、一瞬身を退こうとするが全身を走り抜ける鋭い痛みに、顔を歪めた。
それに気付いた風間は、ゆっくりと唇を離した。口の端からは、血が零れ落ちる。
「俺の血を分けた、安静にしていればお前の傷はすぐに治る」
「千景様……」
はっと我に返った斎藤は、今のうちにと刀を手に取る。構えたところで、底冷えするような風間の鋭い目が斎藤を射抜く。風間もまた刀を握り、すぐに戦闘態勢に入ろうとするがそれを阻む様に裾を引っ張られる感触に目を向ける。
「おい志摩子、まだ邪魔をするつもりか」
「おやめ下さい千景様……。新選組と、戦ってはいけません」
「何故止める? 所詮鬼と人間、相容れぬ存在。まさか……情でも移ったとは言うまいな?」
「そうかも……しれませんね」
そう微かに笑みを浮かべると、風間が志摩子の反応が気に入らなかったのか眉間に皺を寄せた。
「風間ぁああああッ!!」
「っ……!」
叫び声と共に、まるで風間と志摩子を引き裂こうとするように一人の男が刀を振り下ろす。間一髪避けた風間だったが同時にまんまと志摩子から引き離されてしまう。
「ちっ……来たか。土方」
「志摩子に気安く触れてんじゃねぇよっ!」
刀を握ったまま、土方は膝を下り志摩子の様子を伺う。