第16章 傷
「貴様の剣は軽い、軽すぎる……ッ!」
「くっ……俺の剣が軽い? くだらんことを抜かすな!!」
「教えてやろうか? 貴様の剣が何故軽いのか……っ! 貴様には守るべき者がないからだ!!!」
「……ッ、守るべき者……だと!?」
「俺にはある……っ、己の未来と引き換えにしても……守り抜くべき者が!」
「なっ……」
風間の剣が重く、それは刀の重さではない。斎藤の中に動揺が生まれ、それは僅かな綻びとなり隙を生む。すかさず風間の剣が斬り込み、斎藤の刀は宙を舞った。突きつけられた刃は、月明かりで怪しく鈍色に光る。
「これが貴様と俺の力の差だ」
「……っ」
「少し思い知らせてやろう」
風間が刀を振り上げる。斎藤はけして目を逸らさない、風間を睨み付け刀を手にしていなくとも強い眼差しで風間と向き合っている。
振り上げられた刀は、瞬時に下ろされた。
「やめてっ!!」
「……何をっ」
風間が動揺の声を上げる。
振り下ろされた刀は、斎藤を庇うように飛び出してきた志摩子を容赦なく斬り付けた。赤が舞う。恐ろしい程に大量の血液が、風間と斎藤の目の前で散る。
「志摩子っ!!!」
風間は咄嗟に刀を手離し、崩れ落ちようとしている志摩子の身体を優しく抱き留めた。自らの着物が血に染まることさえ顧みず。目の前で起きていることが信じられず、斎藤はただ放心状態で二人を凝視していた。
「志摩子っ、おい……志摩子! 聞いているのかっ!!」
「……千景……様」
「馬鹿者がっ!! 何故、何故俺の剣の前に立った!? 答えろ!!」
「申し訳……ありま……せん」
「もういい、わかった……っ。喋るな、治癒が遅れる」
「……は、い」
痛々しい傷痕から、血は止めどなく流れ落ちる。なかなか止まらない血に、柄にもなく焦りを見せる風間は自らの唇を噛み血を流した。すると……――風間な唇から流れ落ちる血を、口に含むと。
そのまま志摩子の頬に手を添え、唇を重ねた。