第16章 傷
「不知火、天霧。この場を任せる。俺は……あれに挨拶をしておく」
風間の視線の先には、斎藤と共にやってくる志摩子へと向けられていた。土方はその視線を見逃しはしなかったが、千鶴を背に隠すのに手一杯だった。
素早く風間は斎藤と志摩子の元へと、姿を晒した。
「え……?」
志摩子の驚いた声が、場に響く。
あまりにも突然の再会、久しぶりに見る彼の姿。志摩子自身、動揺と戸惑いで言葉を紡ぐことが出来ない。それを見兼ねてか、風間は柔らかく微笑んで志摩子に言葉をかける。
「久方ぶりだな……志摩子」
「千景様……どうして、貴方が此処に……」
「特に変わったことはないみたいだな。怪我もなく」
「はい、勿論で御座います。千景様も……お元気で」
志摩子が風間へと手を伸ばそうとすると、隣にいた斎藤がそれを制す。冷たい表情で風間を睨んでは、自らの背に志摩子を隠す。
それが風間の癪に障ったのか、眉間に皺を寄せ風間は突如抜刀し斎藤へと襲い掛かる。しかし斎藤は居合の達人、簡単に倒されるはずもなかった。己の刀で、風間の剣を受け止めた。
「貴様……っ、俺と志摩子の間に割って入るなど笑止千万!」
「志摩子とあんたの間に何があるかなど、俺には知らぬこと。だが一つだけわかっていることがある……。あんたは、池田屋で総司を斬った男だな?」
「……池田屋。あの手負いの男のことか? ふっ、だったらどうする? そいつの敵討ちでもするつもりか?」
「いや……その確認だけ出来れば、十分だ……ッ」
剣が交わる音が響き渡る。まるでそれを合図にするように、土方達の方からも戦いの音が聞こえてくる。