第16章 傷
「おい、姫さんはどうするんだ? 来てるんだろう。此処に」
「煩いぞ不知火。俺達の今回の目的は、志摩子を迎えに行くことではないぞ」
「ですが風間……本当によいのですか? これ以上の機会はありませんぞ」
高い高い城の壁を越え、気配を消して鬼の三人が新選組の様子を伺っていた。
「どの道今俺が引き取ろうとも、俺のすべきことは変わらん。あいつを……志摩子を巻き込むつもりはない」
風間の瞳に、遠く志摩子の姿が映り込む。手を伸ばしてもけして届きはしない距離。彼女の傍らには、新選組の一人である土方がいた。けれどすぐに入れ代わり立ち代わりで、志摩子の傍にいる者が変わる。
「気に食わん……」
「風間? どうかしましたか」
「俺ならば、あんな顔をさせぬものを」
ぎりっと歯を食いしばると風間は動き始める。狙いはどうやら、千鶴のようだ。
「雪村の女鬼。此処で逃すには惜しい、行くぞ。時間だ」
風間は不知火、天霧を連れ移動を始める。千鶴が伝令のため、一人になったところを狙うつもりだ。千鶴がしゃがみ込んでいる隙に、ゆっくりと近付いていく。塀の上を移動しながら、月だけが風間を照らしていた。
ふと気配に気付いたのか、千鶴の動きが止まる。途端、彼女は思い切って風間達の方へと振り返った。