第2章 風
「危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございます。えっと……新選組の、斎藤様」
「俺は勤めを果たしただけに過ぎん。あんたも、こんなところに女一人で歩き回っているとまた先程のような無粋な輩に絡まれるぞ。連れがいるのなら、早々に戻った方がいい」
「ありがとうございます……ですが、その方と落ち合う約束までまだ少し時間があるのです。なので、その……それまでもう少し人通りの多いところに行ってみます」
「……そうか」
斎藤は軽く後ろを振り返り、同じ羽織を着た隊士達へ「先へ戻っていてくれ」と告げていた。志摩子はどうすればいいかわからず、斎藤の様子を伺っていた。
「あんたは、都に来るのは初めてか?」
「はい! 都はとても素敵なところですね、こんなにも人がいっぱいで……沢山の人が楽しそうにしている様を見るのは初めてです」
その志摩子の発言に、斎藤は軽く首を傾げた。
「初めて……か。珍しい光景ではないはずなのだがな、もしや田舎暮らしか?」
「そうですね、そう……だと思います。町自体が見るのも来るのも初めてですから」
「なるほど、なら色々と説明がつく。あんな露骨に初めて此処に来た、という顔で歩いていれば変な輩に絡まれても仕方あるまい」
「この辺は、初めて訪れる人には怖い場所なのですか?」
「そういうわけではないが……あんたは、少し目立つからな」
「目立つ……?」
きょとんとしている志摩子だが、現在進行形で実のところ志摩子は目立っていた。ふわりと風になびく髪に、綺麗な宝石のような瞳。おっとりとした佇まいは、何処かのお姫様を連想させるほどだ。整った顔が、何処か少女の面影を残しながらも大人の女を思わせる。
そんな絵になりそうな志摩子に、誰もが一度は振り返ってその姿を映す。どうやらそれは、斎藤も同じのようだ。