第13章 鴇
「おい、雪村」
「なんですか?」
「お前、今暇か?」
「暇と問われればそうだと思いますけど……どうかしたんですか?」
「少し俺に付き合え、町へ出るぞ」
「え!?」
「ついでに綱道さん探しの手がかりでも、探すか」
「……! はい! すぐに準備してくるので、先に玄関で待っていて下さい!!」
「おうよ」
雪村は元気だな。嬉しそうに走って行く姿は、まさに犬だな。俺も一度部屋に戻って、支度を済ませて玄関へと急ぐ。まぁ、別に持っていくものなんてないが。
「お待たせしました!」
「よし、じゃあ行くか」
隊服を着ずに、外へ出るのは久しぶりかもしれない。町は相変わらず賑やかで、それを俺の隣で雪村は嬉しそうに眺めている。
「そういえば、お前の下の名前なんだっけか」
「え? わ、忘れたんですか!?」
「ああ、忘れた」
「ひ、酷いです! 千鶴ですよ、千鶴!」
「……ふっ、知ってるよ。千鶴」
「……!」
俺が千鶴と呼ぶと、面白いくらいにこいつは頬を赤く染める。なんだ、可愛いとこもあるじゃねぇか。
「おい千鶴、お前甘い物は好きか?」
「うっ……す、好きですよ! でも最近食べ過ぎで太った気がして」
「太った? 何処がだ」
「原田さんや永倉さんが、よく巡察の土産だってお団子をくれたんです。ですがそれを毎回貰い続けた結果……少し」
「全然太ったようにも見えないがな……」
「本当に太ったんです! お腹とか……」
「近藤さんに比べれば大丈夫だ」
あの人の腹は、たぬきみたいにぽんぽこりんだからな。それを本人に言うと、急に痩せるぞって抜かしやがるから厄介だ。