第13章 鴇
「副長!」
そんな俺を見兼ねてか、斎藤が顔を出した。
「用は済んだ。戻る」
一人廊下を歩けば、遠くで二人の会話が聞こえてくるような気がした。
そうだ、どちらかと言えば一番斎藤と一緒にいるとこを見ない気がする。だから何も思わなかったし、感じなかったのかもしれないが……。どうしてか、ふとあの二人を見かけるとなんだかそわそわしちまう自分に気付く。
ついあいつの手を、引いてしまいたくなる。
「今の俺じゃ、あいつに触れることも出来ないのにか」
そうだ、どうせあいつは捕虜。いずれはこの場所を出ていくんだ。そしたら、あの風間のところへ行くのだろうか? それとも……。
俺らしくもねぇ。何を女一人に、ごちゃごちゃと考えているんだろうか。俺がすべきことは山ほどある。それは新選組のために、近藤さんのために……道を切り開くこと。
今の問題はあの伊東さんだ。山南さんがいなくなったことで、新しい屯所に急遽移転したわけだが……。あれ以来、度々伊東さんは山南さんの名を出して俺達の顔色を伺っているようにも思えた。本当に、油断ならねぇ人だ。
「あ、土方さん。志摩子さんを見ませんでしたか?」
「なんだ雪村か。志摩子なら、斎藤と一緒に洗濯物探しの旅に出てるぞ」
「洗濯物探しの旅? ああ、なるほど! それじゃあ、私は庭の掃除でもしようかな」
「お前も志摩子も、飽きねぇな。天気のいい日くらい、お天道様に当たれ。日向ぼっこでもしろ」
「じっとしてると、つい何かしたくなるんです。そういう土方さんは、何をしていたんですか?」
「なんもしてねぇよ」
本当にいい天気だ。何処かへ出かけたくなる。