第12章 虚
後に目が醒めた千鶴は、土方に事のありさまを報告することとなった。山南の様子は深刻だったものの、なんとか一命を取り留めた。しかし……同時に、一つの問題が浮上した。
土方は一人、山南の元へと訪れていた。
「山南さん、もう身体はいいのか」
「ええなんとか。少し日中は身体が気怠いような気もしますが。その他では然程問題はありません」
「……左腕は治ったのか?」
「……そうですね、治っているみたいです」
「だが変若水を飲み、その後正気を取り戻した例は今回が初めてだ。その状態で通常の隊務に参加できるのか?」
「土方君、私のことは死んだことにして下さい」
「……なんだと?」
「それから、土方君にお願いがあります」
山南は改めて土方へと向き直る。
「志摩子さんに、変若水のこと……そして私がもう人でないこと、これから私は死人として身を潜めることをお伝え下さい」
「志摩子にだと!? どういうつもりだ山南さんっ! あいつは新選組に関係ない、そんなこと知る必要はない! 知ったらますます、あいつを斬らなきゃならなくなるかもしれねぇ。それをあいつに伝えて、何になる!?」
「私にとって、志摩子さんは唯一の光でした」
山南にとって、左腕が使えなくなってからというもの、隊士達からも徐々に避けられ会話も減っていった。伊東が来たことで、それは急速に加速し山南の居場所は知らない間に失われていた。