第12章 虚
「新八に原田、お前達は隊士達の様子を見ておいてくれ。それから、この部屋には誰も近づけるな。人払いをしろ」
「あいよ」
「斎藤は庭で待機。伊東一派を牽制してくれ」
「わかりました」
それぞれが支持された持ち場へと向かう。
「土方さん、志摩子ちゃんはどうするの?」
「そうだな……。お前は俺と共に来い、雪村を一旦俺の部屋に運ぶ。見張ってろ」
「……かしこまりました」
志摩子は土方と共に、千鶴を連れ彼の部屋へと向かう。千鶴を布団に寝かせてやると、土方は一度志摩子の方を見た。
「どうして雪村が危ないとわかった?」
「……声が、聞こえた気がして。悪夢に魘されて目覚めた私は、水を飲もうと部屋を出ようとしました。そうしましたら、千鶴様がいないことに気付いて、何かがおかしいと思い……」
「そうか。山南さんのことについて、他に何か知っていることはあるか?」
「いえ……特には何も」
「ならばそのまま何も知らないでいてくれ」
「歳三様?」
土方はゆっくりと立ち上がると、まるで志摩子に釘をさすように告げる。
「お前はこれ以上、新選組に深く関わろうとするな。知れば俺は、お前を斬らなきゃならなくなる。それだけは……させてくれるな」
志摩子が言葉を返すよりも先に、土方はその場を出て行ってしまう。未だ目を醒ますことなく目を閉じている千鶴を見つめながら、志摩子はその場に座り込んだ。