第12章 虚
「これは……鬼の言霊?」
鬼だけが聞き取ることのできる声。心の声に、似たような声。千鶴が危ない! そう確信した志摩子は、慌てて廊下を走り出す。その音に反応して、部屋の戸を開けたのは土方だった。
「志摩子、こんな夜更けにどうした」
「歳三様! 一緒に来ては頂けませんか? もしかしたら、千鶴様が危ないかもしれません」
「なんだと……?」
千鶴の声が聞こえた方へと、志摩子が先導するように走る。すぐに土方もその後を追う。二人が辿り着いた先は、屯所の離れにある小屋。すると、今度こそはっきりと千鶴の叫び声が聞こえて来た。
「誰か! 誰か早く来て下さい!!」
声を聞き、志摩子と土方は顔を見合わせ一気に部屋へ押し入った。
「山南さん!!」
飛び込んだ先には、白髪の髪に染まった山南が虚ろな赤い目をして、千鶴の小太刀を手にしてその刃を自らに突き付けようとしていた。千鶴はそれを必死に阻止していた。
「何してやがるんだ、山南さんっ!」
すぐに土方は手刀で山南から小太刀を落とす。そしてその騒ぎを聞きつけ、幹部達が一斉に押し寄せてくる。
「一君はそっち! 抑えてっ」
「わかった」
沖田と斎藤で山南を捕え、押さえつける。あまりの光景に、千鶴は気を失ってしまう。その身体を、土方はそっと受け止め床に寝かせた。