第12章 虚
「雪って綺麗だよね。白くて、冷たくて、触れると溶けて消えちゃう。存在しているのか、いないのか、わかったもんじゃないよね?」
「……――その声はっ」
志摩子は焦ったように、声のする方へ視線を向けた。そこにいたのは、塀の上に一人立っている少年。志摩子は一歩その場から下がると、震え始める声を絞り出して……言葉を発した。
「天、なのですか?」
「久しぶりだね。姉様……家で軟禁されているはずの姉様が、どうして外にいるの? どうして……新選組と一緒にいるの?」
天は塀から降りてこようとはしない。ただそこで、じっと志摩子の様子を伺っていた。
「貴方こそ……生きていたのですか!?」
「失礼だなぁ。ボクは姉様のために、ずーっと痛い思いしながら姉様をどうすれば外に出してあげられるか考えていたのに」
「え……? それは……どういう意味ですか」
「準備は整い始めている。姉様、ボクと共に行こう。人間と一緒にいる必要なんてないんだ」
「お断りします。私は、貴方とは行きません」
「兄様が知ったら、きっと同じことを言うよ? 何も変わらない。姉様はね……何にも自由になんてなってないんだ」
「……っ」
「新選組の奴らに騙されているんでしょ!? そうなんだね? でなきゃ、あの従順で可愛い可愛い姉様がボクの誘いを断るわけないもん! うん、そうだよね。じゃあ一ついい事教えてあげるね」
「天……?」
天は志摩子へと背を向ける。愉快そうな笑みを、残しながら。