第12章 虚
「総司様! 何をなさってるんですか!」
「げっ……志摩子ちゃん。なんでこんなところに」
「志摩子……?」
伊東の視線が、すぐに志摩子へと向けられる。目を細め、何処か品定めしているようにも見える。
「沖田さん、彼女は?」
「……土方さんの妹君ですよ。今はこの屯所内で、医学の心得がある者として隊士達の怪我の治療を任せている子です」
「なるほど……新選組専属の医者というわけね」
「い、いえ……そのような大層なものでは」
「貴方、綺麗な子ね。確かに土方さんと似て、美しい顔立ちだと思うわ」
そう言って伊東が志摩子に触れようとすると、沖田はすかさず志摩子の腕を掴み引き寄せた。
「志摩子さん、だったわね。良ければ今度、ゆっくりお話しましょうね。待っておりますわ」
「……はい。わざわざありがとうございます」
伊東は怪しげな表情を浮かべたまま、その場を立ち去る。それを見届けると、沖田は千鶴へと先に声をかけた。
「千鶴ちゃん、片付けまだ残ってるでしょ? 早く行きなよ」
「あ、はっはい!」
「志摩子ちゃんはもう部屋に戻ってようか」
「え? しかし私も片付けが……」
「そう何度も助けてあげられないんだから、勘弁してよね。ほら、行くよ」
「あ、ちょっと……総司様!」
沖田に手を引かれ、部屋まで送られることに。流石に過保護な気がしたが、他の幹部達も伊東に対してあまりいい印象を持っていない様子だ。自分一人が何とか出来ると、そうは思わない方が良さそうだ。
◇◆◇
時は過ぎ、寒い冬が訪れ始める。空からは雪が降り、都を白く染める。
志摩子は家事がひと段落したのか、一人雪を眺めていた。
幹部達は、隊士達がこの数ヶ月で数が増えたことにより、広い屯所探しについて会合を開いていた。勿論その会合に参加できるはずもない志摩子は、呆然とただ雪を眺めていた。