【CDC企画】The Premium Edition
第1章 Cœur Ganache Noir(月詠:悲恋)
…………潰してやろうか。
忍び寄るように過ぎった思考は、アスカに甘美な誘惑へと招待する。実際、坂田銀時さえ存在しなければ、アスカの座は確保されていたも同然なのだ。鳳仙や地雷亜の呪縛に囚われていようが何だろうが、銀時との出会いがなければ、月詠が誰か一人に心奪われる事はなかったはず。そしてアスカも右腕として、月詠の側で永遠に居られたはずなのだ。それを取り返して何が悪いと言うのだろうか。
大きなため息が、一つ漏れる。
己の不幸に浸る自分が一番情けないのは、アスカも自覚済みだ。過去は過去であり、一度できてしまった縁はなかなか切り離せないのも知っている。それに銀時を始めとした万事屋の存在がなければ、吉原は今のような活気を知る事はなかったであろう。恨めしい気持ちもあるが、それを凌駕するほどの恩もある。冷静になって落ち着きを取り戻せば、アスカは静かに視線を二人に戻した。
相変わらず喧嘩のような馴れ合いをする二人は、どことなく楽しそうな雰囲気を醸し出している。今はアスカに背を向けてしまっている月詠も、耳の赤さと初心なボディ・ランゲージで、背中からでも浮かれている事が丸分かりだった。
対する銀時はどのような表情をしているのか確認しようと、アスカは視線を少し月詠からずらす。どうせいつも通りの、彼の間抜け面を拝むのだろうと思い、期待は何もしなかった。が、それは裏切られる事となる。
ほんの一瞬、一秒にも満たない一瞬の事だった。僅かだが、月詠越しに銀時と視線が交わったのである。それは偶然として目が合ったのではなく、意図的に合わせられた視線。そしてそのアイコンタクトで伝わったのは、勝者の自尊心だった。アスカを敗者と見下し、勝ち誇った笑みをその瞳で表現していた。
刹那、アスカに虫唾が走る。