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【CDC企画】The Premium Edition

第1章 Cœur Ganache Noir(月詠:悲恋)


思えば、アスカの胸に燃え盛る憎悪の種は、その時の二人を見て植え付けられたのかもしれない。欲しいと願ったモノは与えられず、手に入れようとしたモノは奪われる。いつだってそんな人生だった。それは長期間に渡り手にした「頭の右腕」と言う座も例外ではなく、例え地位は月詠に最も近くても、心はあっさりと銀時に掻っ攫われた。しかも奪われたからと言って月詠が不幸な目に遭う訳でもなく、むしろ逆に月詠は女としての喜びを無自覚に楽しんでいる。

現実を思い返せば返すほど、自覚すればするほど、アスカの胸中に憎しみ以上の恐ろしいものが渦巻き始める。無表情で込み上げてくる怒り。そしてそれを上回る、説明のつかない歪んだ感情。

まるで真っ直ぐだった釘を斜めから打ち間違えられて、捻り潰されて使い物にならない代物にされたかのようだ。理不尽な仕打ちを受けたにも関わらず、そのまま捨てられる存在であるかのような錯覚。誰にも認められない虚無感。

高速で回る思考と感情を突き詰める内に、バキリッ、と手元で不快な音がした。

話し込む二人を無表情で見守っていたアスカだが、その奇妙な音の正体を突き止めるべく、彼女は目玉だけを動かして、ギョロリと視線を自分の手元に下ろした。どうやら無意識に両手に力を込めていたらしい。月詠に渡すはずだったプレゼントは、箱ごと折ってしまった。

カレーのルウを軽く割る感覚で、真ん中から綺麗に折れた箱はもはや見れた姿ではない。ハート型のそれは真っ二つになり、指が触れていた十箇所は跡がクッキリ付くほどめり込んでいる。確認せずとも中身も真っ二つに割れている事だろう。己の心を比喩しているかのようだ。

もはやバレンタインなど関係なく、アスカは漠然と己の惨めさを実感していた。何が原因でこうなってしまったのか。それは間違いなく、あの男の横槍の所為だ。あの眩し過ぎる太陽が、アスカの身を焼き殺しているに違いない。
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