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【CDC企画】The Premium Edition

第1章 Cœur Ganache Noir(月詠:悲恋)


アスカが声をかけた時は、顔を確認してから誰だか気づいたくせに、あの男には声だけで奴だと気づいていた。アスカとの会話よりも、横槍を入れてきた男を優先した事実も腹立たしい。そして、まるでそれが当たり前であるかのように、現在進行形で話し込んでいる二人が目の前に居た。先に話しかけていたはずのアスカは蚊帳の外。こんなにも月が遠くなったのは、果たしていつだっただろうか。

「ああ、そう言えばそうか」

頭に浮かんだ疑問が、実は愚問である事に自ら気づく。思い出した記憶を辿ると、確かに二人の間にただならぬ絆が結ばれていたのかもしれない。男とは知り合ってそれほど時間が経っていない所為もあり、見過ごしていた事実がいくつかあったのかもしれない。

鳳仙を倒した時は、まだその歯車は回っていなかったような気がする。当時は吉原の独裁者を仕留める為の協力者であり、その程度の存在だった。月詠は日輪の「晴太を助ける」と言う願いを叶える為に動き、たまたまそこに万事屋の三人組が居ただけの事だ。強敵を共にやっつる事によって、友情のような物が芽生えたのは認めよう。だがそれ以上でもそれ以下でもない。

だとすれば、恐らく月詠とアスカの師匠である地雷亜を倒した時。いや、それしかない。

知らぬ間に紅蜘蛛を調べていた二人。

知らぬ間に夫婦と偽った二人。

知らぬ間に地雷亜と対峙した二人。

知らぬ間に銀時は負傷し、月詠は拐われた。

知らぬ間に、知らぬ間に、知らぬ間に。

全てが知らぬ間に始まり、全てが知らぬ間に発展してゆく。

アスカが月詠の誘拐を知った時には、既に吉原は火の海へと姿を変えていったのだ。本来ならば吉原の番人として、消火の指示を仰ぐ者にならなければいけなかったのだが、愛しい人と吉原の住民を天秤にかけてしまえば、どちらを優先するのかは明白。それに、誘拐犯が己の師匠ともなれば、心当たりのある場所はいくつかあった。

実際、最初に月詠の場所を突き止めたのもアスカだ。真っ先に救出しに来た英雄は、彼女のはずだった。

しかし所詮、アスカは地雷亜の二番弟子。月詠でさえ太刀打ちできない相手に、アスカが敵うはずがなかった。結果、無謀だった救出劇はアスカの敗北に終わる。どんなに月詠を助けたい気持ちがあっても、師弟の壁を越える事は不可能だった。
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