【CDC企画】The Premium Edition
第1章 Cœur Ganache Noir(月詠:悲恋)
善は急げ。気持ちを伝える覚悟が揺るがぬ内にと、吉原の暖かな陽射しの中で歩むその人を後ろから呼び止めた。
「月詠」
「ん? ……ああ、アスカではないか。どうした? 任務の帰りか?」
声をかけた人物を振り返って確認した月詠は、それが共に吉原を支えてきたアスカだと分かり微笑みを向ける。そんな輝く表情を目の当たりにし、アスカは徐々に加速しはじめる己の鼓動と、その鼓動に合わせて血の巡りが良くなる顔に気づかざるを得ない。
やはり綺麗だ。
思うことはただ一つ。両手で持っているプレゼントは背に隠し、いつも通りを心がけながら、アスカはそんなことを考えた。いつ見ても、真正面から見るには月詠は少し眩しすぎる。
先頭を切って吉原を守る月詠とは対照的に、影から吉原を守って来たアスカにとって、月の光さえも眩しすぎる節があった。けれどこの光を欲している自分を、月詠なら受け止めてくれるような気もするのは確かだ。長年連れ合っただけあって、お互いを大事にしているのは解っている。だから例え想いを告げて月詠から望んでいる返事が返ってこなくても、きっと彼女はアスカを無下にはしない。ずっと相棒で居られる自信はある。
吉原で輝く月の隣は、きっとこれからもアスカの物だ。その確信と共に、アスカは本題へと会話を誘導させた。
「今日は久々の非番で少し出かけてた。でも月詠に用事もあるんだ。月詠……あのね!」
「いよォ、ツッキーじゃねーか」
「ぎっ、銀時!」
見事な入れ替わりだった。
想いと共に差し出そうとしたプレゼントは、手前に持ち変えたのと同時に注目を失う。先ほどまでは月詠の意識を独占していたにも関わらず、呼びかけ一つで、あっさりと全てを奪われてしまった。
手渡そうとしたチョコレートの箱は一寸も月詠の目には止まらず、彼女は既に後ろから声をかけた人物と向き合っていた。
一体、何だと言うのだろう。心の余裕を持っていたとは言え、アスカなりに覚悟を決めて言おうとした所に、この拍子抜けな展開だ。何よりもアスカにショックを与えたのは、瞬時に「女」へと変貌した月詠の態度である。