【CDC企画】The Premium Edition
第4章 Truffe Fraise(銀時)
その一言で、自然と全ての謎が解けた。
まだ二人が松陽の元で勉強していた村塾時代、アスカはすでに物語を書く事に強い関心を抱いていたのだ。休み時間になっても墨と筆を片付ける事なく、さらさらと物語を書き続けるほど没頭していた時期もあった。そして書きあがった際、必ず物語を読ませていた人物が二人いた。
一人は言わずもがな、文章や構成を嘘偽りなく評価してくれる師、松陽である。文章力を上げる為に、良きアドバイスをくれた人だ。
対してもう一人は変わった人選だった。それは読書はおろか、勉学そのものに興味のない銀時である。何故、彼なのか。小説を渡しても流すようにしか目を通さず、はいはい、と感想すらない返事で物語を突き返してくるような奴だ。普通ならば避けて選ぶ読者だ。
しかし、アスカはそんな銀時だからこそ読ませたのである。読書に興味のない人だからこそ、どこまで自分の作品で惹きこむ事が出来るのか…………それと試せる相手だったのである。
だが結局、松陽も村塾もなくなり、銀時とは戦争の所為で別れてしまう。そしてそれまでに銀時からちゃんとした感想を貰えた事は、一度もなかった。互いに成長し、互いに江戸で再会しても、アスカはもう小説を書いている事を密かな趣味として楽しんでいた。読書に興味のないと分かっている銀時に、これ以上感想を尋ねる必要もない。ネットでひっそり楽しめれば十分だったのだ。
だけれど、今の銀時の言葉は、そんな過去の思いを覆した。おそらく山口としての作品は、テレビでたまたま知ったのだろう。そしてたまたま作中の名場面が抜粋され、キャスターに読まれたのであろう。その銀時の耳に入った文章が、昔、アスカに読まされた物語と文体が似ていたのかもしれない。懐かしさを覚え「山口=アスカ」と認識したのかもしれない。