【CDC企画】The Premium Edition
第4章 Truffe Fraise(銀時)
というのも、所詮ネットだ。携帯小説は若者に人気である反面、書店に並ぶ本格的な小説を好む者には見下されている。たとえどんなに良い内容を書いても、ネットに投稿した時点で一部の人間は批判しかしないと経験上よく分かっている。そこに素顔を曝け出せば、批判しか能のない輩には格好の餌食だ。私生活にまで持ち込みたくない厄介ごとである。画面の向こう側にいる人間を信頼したいのは山々だが、匿名である事を利用して迷惑な行為をする人種がいるのもまた事実。だから、アスカは自分を山口だと公表するつもりは、これっぽっちもない。
それにネットでの活動も、この日で終わらせると決めていた。別にこれと言った理由はない。小説を書くことが大好きなのは変わらないため、きっと一人で物語を書き進めてゆくだろう。ただ、それらを公にしないだけだ。
ゆっくり、自由気ままに。そんな書き方をしたいだけなのだ。何もプロになろうとしていた訳でもないし、私生活も私生活で趣味とは違った忙しさがある。自分なりの生き方を改めたいと思い、引退宣言をしただけの事。けれどファンからすればあまりにも突然でショックな決断だったらしく、この引退も大きく取り上げられてしまった。
それから普段の生活、引退作品の執筆、そして引退宣言に関するメールでの取材で、ここ最近は目まぐるしい程のハードスケジュールだったのは認めよう。だけど、私生活では物書きをしている素振りを一切見せていないアスカを、ネットで話題の「山口」と繋げるのは不可能なはずである。そんなボロが出ないよう徹底していたはずだ。だが、何故か銀時は確信を持ってアスカに話している。
山口作品に熱狂的であると言ってくれたお妙や幼馴染の桂にバレるのなら分かる。作品の中に散りばめられた、アスカの私生活に基づくシナリオが入っているので、アスカと山口作品をよく知っている人ならば気づいてもおかしくはない。けれど今回バレた相手は銀時だ。人生で読んだ一番高レベルな本が「少年ジャンプ」だと言う男である。たとえ結野アナが好きだと言っても、活字に興味を示すとは到底思えない。
なのに何故この男にバレたのか。それは大きな混乱としてアスカの胸中に渦巻いた。そんな様子の彼女に、銀時は当然だとばかりに笑って答える。
「そりゃあガキの頃、あんなに読まされてりゃなァ?」