【CDC企画】The Premium Edition
第4章 Truffe Fraise(銀時)
牛乳を冷蔵庫のスペースを借りて仕舞い、一本の大きめなスプーンを使って、二つのイチゴ牛乳を順にかき混ぜる。そうすれば、真っ赤なイチゴと真っ白な牛乳が見事に混ざり合い、愛らしい桜色の飲み物が出来上がった。あとはもう飲んで楽しむだけだ。
そして完成品を見て、先に口を開いたのはアスカの方だった。
「さてと、いただきまーす」
「まあ待てや。せっかく久しぶりに飲むお手製のイチゴ牛乳なんだぜ。何かに乾杯でもしようや」
いつもならアスカの一声と共に、勢いよく飲み始める銀時だったが、今日は妙な制止を入れてきた。乾杯だなんて奇妙な提案に、アスカは疑問を投げかける。
「乾杯って、急にどうしたの?」
「いや別に。ただ、贅沢なイチゴ牛乳をこれから飲むってんなら、ついでに何か祝ったり乾杯してた方が縁起いい感じすんだろ?」
「珍しいわね、銀ちゃんがそんなこと言うなんて。何か特別にお祝いしたいことでもあるの?」
「そんな所だ。お前の引退作品に乾杯、ってな」
「え?」
「確か今日だっただろ、最後の小説が公開されんの」
「……何で知ってるの?」
「そりゃあ『山口』って名前のネット小説家を知らない方がおかしいだろ。テレビで特集組まれるほど有名なんだからよォ。結野アナも大絶賛してたしな」
「違う! どうして私が『山口』だって知ってるの? 私、ネットで小説書いてる事、誰にも言ってないのよ!?」
銀時の口から溢れる言葉に、アスカは驚きを隠せなかった。
周りの人間に隠していたつもりだが、アスカは「山口」と言うハンドルネームを使い、ネットに小説を公開する小説家だった。デビュー作から小説家としての鬼才を発揮し、無料で読める事もあってファンの数もあっという間に膨大となった。そして次々とネット上で募集しているコンテストに彼女は参加し、投稿したほとんどが何かしら受賞している。恐ろしいほどの才能だ。
その活躍はメディアにも取り上げられ、テレビ局によって一般の人たちに多く知れ渡る。興味を持った人間は更に増え、今では本屋にまで作品が立ち並んでいるほどだ。文芸界に大きな影響を与えて全国的にも評価をもらった彼女だったが、一度も素顔や本名を公表した事はない。