【CDC企画】The Premium Edition
第3章 Liquor(リヴァイ)
共に調査兵団として戦い、そして死んでしまったアスカ。彼女の遺体を灰にし、壁外へばら撒いたのはもう数年前の出来事である。「せめて死んでからは自由に旅をしたい」と願っていた彼女の要望に応え、リヴァイ自身が壁外調査のついでに行ったのである。
そしてその後、リヴァイは不思議と時折、夢の中でアスカと再会をしだした。彼女の灰が風に乗って移動しているであろう場所に、アスカは夢を通してリヴァイを招待しているようだった。おそらく、現時点で最も安全に壁外を楽しめる方法がこれだ。
そして今日の夢では、アスカの灰が地の果てへと辿り着いた事を示していた。
「海って、どんな味がすると思う?」
「何だ急に?」
旅する事によって世界の知識を得ているアスカは、得意そうに質問を投げかけた。そして薄い反応を見せるリヴァイから離れ、海へ向かって突き進む。波で足が濡れる場所まで来れば、彼女は腰を曲げて水との距離を詰め、手を伸ばして海水に晒した。緩やかな波によって手首まで濡れれば、そのままアスカはリヴァイの元へと戻る。
しかし彼女は彼の隣へと座ることなく、ただリヴァイの目の前に立ち、濡れた手を差し出した。
「舐めてみて」
妙なことを言い出す彼女に訝し気な視線を送るが、夢の中だから、とリヴァイはその言葉に応じた。控えめに、けれど水がしっかり口の中で味わえる程度に、リヴァイは海水をアスカの手の甲から舐めとった。その際、リヴァイの瞳孔が驚きでわずかに開くのを、アスカは見逃さない。
「どう?」
「……塩辛い」
「涙と同じ味がするでしょう」
「汗の味とも言える」
ロマンの欠片もない返答に、アスカは笑った。いずれにしろ、海の味を知って驚くリヴァイの姿が見れただけでも満足である。そっとリヴァイの隣へと戻り、頭を彼の肩に預けながら、輝く海をただ見つめていた。