【CDC企画】The Premium Edition
第2章 Carré Lait(芳村)
「何か、問題でもあるのかな?」
「別に。ただ、わざわざ子供に合わせて嘘ついてる貴方を見ているのが滑稽だっただけよ。どうせミルクにも何か細工してたんじゃない?」
「ここだけの秘密にしてくれると、助かるんだが」
側から見ればバレるような細工。まさしく「子供騙し」な事を、芳村は先ほどの少女に仕掛けていた。
本人が望んだとは言え、通常のコーヒーを成長期前の子供に出す訳にはいかず、芳村はカフェインの入っていないデカフェを一から煎れたのだ。それだけならば良いのだが、差し出したミルクにも一工夫入れていた事を、利世にはお見通しだった。
実際、ミルクを入れただけのコーヒーはこれっぽっちも甘くはない。せいぜいコーヒーの苦味が抜けるくらいだ。けれど少女は素直に「甘い」と言った。「ミルクの質が良い」と見え透いた嘘でも通じるくらい、ほんのわずかな甘さではあったが、それでも感づかれる寸前まで入れていたのだ。
自分が大人であると豪語する少女が、コーヒーの味も誤魔化されているのに気づかず飲む姿は、腹を抱えて笑っても良いほど矛盾に溢れていた。コーヒーに関して初心者である事を差し引いても、笑いに値するネタだ。
そして何よりも、食べる対象であるはずの人間に、無償で優しくしている喰種の「おままごと」があまりにも面白かったのだ。面白すぎて、利世でさえ一役買ってしまおうか迷っているくらいである。
「優しいのね。今度は私が子守でもしようかしら」
「……あの子を狙っているのかな?」
「そう怒らなくたって良いじゃない。安心して、もうしばらく成長させてから頂くわ。あの肉質じゃ、食べても何の腹の足しにもならないもの」
試しに放った挑発は、芳村の見事な殺気で返された。見た目こそ変わらないものの、薄眼を開けて喰種の本能を覗かせている時点で、彼があの少女を相当気に入っているのは分かった。だが正直、芳村が誰を気に入ろうと利世には知った事ではない。いつかは喰ってしまおうと強く思っているが、それが今ではない事だけ伝えて、一時的な安心を店長に与えた。
一応、偽りはない。利世もいくら若い肉が好きだとは言え、さすがにあの少女は若すぎると感じた。グルメと称される月山なら、若さ故の美食だの何だのとうるさいだろう。しかし、利世にとっては味よりも量が優先される。大食いとしてのこだわり、と言っても過言ではない。