【CDC企画】The Premium Edition
第2章 Carré Lait(芳村)
「ぷはぁ、ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。さあ、もう帰ると良い。あまり暗くなると、外は危ない。コーヒーも私のサービスだから、お代はいらないよ」
「……いいの?」
信じられないサービスだ。常連ならばいざ知らず、初めて訪れた少女にして良い好意ではないはずだ。しかし、クーポンを使わなければならないほど少量のお金しか持ち合わせていない彼女にとって、これもありがたい話である。
芳村もこの好意を受け取らせる後押しとして、更に一言付け加えた。
「ああ、いいとも。大人のコーヒーを飲む事のできた、私からのお祝いだ。その代わり、また来てくれると約束してくれるかな?」
「うん、約束する! ありがとうね、おじさん!」
元気な返事と共に、少女は来た時と同様に勢い良く駆け抜けた。しかし気分は入店した時とは真逆のようで、ドアが閉まる寸前には、外の階段で響き渡る少女の鼻歌が聞こえてくる。嵐のような人間ではあったが、それもまた微笑ましいと、芳村は笑みを携えながら飲み干されたコーヒーカップを片付ける。ようやく店の者としての作業に戻り始めたのだが、それも店内に響く嘲笑に似た笑い声により、阻止される。
再び手を止めて顔を上げれば、そこには一部始終を見ていた女性客、利世の鼻で笑う姿が伺えた。
「いつから店長はミルクだなんて生臭いものが好きになったのかしら? すごく興味があるわ」
読みかけだった本は、既に栞を挟んで閉じられている。もはや彼女の興味は読書ではなく、先ほどまで子供に付き合っていた初老に向いている。その表情はありありと芳村を見下しており、テーブルに肘をついて頬杖をしてまで、馬鹿にしている事を主張していた。更に付け加えるとすれば、読書仲間の月島がその場にいたら、かつて会員制美食クラブの話題を鼻で笑われた記憶が蘇るであろう表情だ。普通の人から見ても、向けられて嬉しい表情ではない。
けれど芳村がそんな事で腹が煮えくりかえるはずもなく、冷静な対応で返事を返す。