【CDC企画】The Premium Edition
第2章 Carré Lait(芳村)
「そう、こんなにあるんだよ。だから、お嬢ちゃんのコーヒーにミルクを入れても『大人の味』には変わりないんだ」
「でも、あそこのお姉ちゃんはそのまま飲んでる……」
「それは、人それぞれの好みと言うものだよ。あのお姉さんはブラックが好きかもしれないが、君は君の好きな味を探すと良い」
少女はそれを聞いて黙り込んでしまった。どうやら、メニューの情報と店長の励ましだけでは納得が行かなかったようだ。少女は憧れる女性客を横目で捉えながら、内心、自分の子供舌を悔やんでいる。
いくら大人も飲むと聞かされても、ミルク入りのコーヒーを好む大人に出会った事がないのだから、未だに信じがたい部分もあるのだ。そんな疑心をどことなく感じたのか、芳村はある事を告げた。
「実はね、おじさんはミルクの入っているコーヒーが一番好きなんだ」
「え? そうなの?」
「ああ、そうだよ。こんなおじさんがミルクの入っているコーヒーが好きだと言ったら、君は私を子供だと笑うかね?」
「……ううん! ミルク、いただきます!」
少女の表情は、安堵に満ち溢れる。実際にミルク入りコーヒーが好きだと公言できる大人がいるのなら、話は別だ。しかも大人のコーヒーを取り揃えている店長の言葉ともなれば、信頼度は抜群に上がる。少女は躊躇いもなく、ミルクを全て残りのコーヒーに混ぜ入れて飲んだ。
「すごい、もう苦くないよ! 美味しい!」
「気に入ってくれたかね?」
「うん! あ、でもちょっと甘い感じもする。どうして甘いの?」
「それは、とても良いミルクを使っているから甘く感じるんだよ」
「へえ」
先ほどとは打って変わって、圧倒的に飲みやすくなったコーヒー。苦いだけの味はミルクの濃厚さで調和され、ゴクゴクと楽しめる。こんなに飲みやすい物でも大人の飲み物だと呼べるのなら、それを飲める少女も立派な大人のだろう。そう自己完結し、少女は満足そうに最後の一口を飲み込む。