【CDC企画】The Premium Edition
第2章 Carré Lait(芳村)
コーヒーと同じようにコトリ、と目の前に置かれたのは小さめのミルクピッチャーだった。中には予想を反さず、たっぷりとミルクが入っている。
「これを入れて見てはどうかな」
「これ、ミルク…………結構です! ミルクと砂糖が無くても、わたし飲めます!」
芳村の好意はあっさりと断られる。しかもどうやら、今度はムキを通り越して怒らせてしまったようだ。子供扱いされたと思い、少女の頰は桜色に色づいて不機嫌な様子を見せている。
だが、芳村にとってはそんな反応でさえ愛らしく映ってしまうものだ。気難しい年頃の若者をよく相手しているだけあって、幼い少女の背伸びが微笑ましい。これくらいの生意気さが丁度いいと、どこか暖かな表情で受け入れてしまう。
けれど少女と言えども、大事な客さんには代わりない。いつまでも不機嫌で居させては、店主としての矜恃が問題視されてしまうであろう。「あんていく」を訪れた人間には、笑顔で帰って欲しいと常日頃から願っているのだ。だから芳村は、少女に向き合った。
「そうだね、お嬢ちゃんは一人でコーヒーを飲みに来れる、一派な大人だ。だから大人なお嬢ちゃんには、大人が楽しむコーヒーを教えたいんだ」
「……大人が楽しむ?」
「そう。コーヒーには色々な種類があってね、その中にはミルクを入れて楽しむ物も多い」
見てごらん、と言わんばかりに、芳村は持ち帰りの出来るパンフレット型のメニューを差し出す。少女がコーヒーの一覧を目にしているのを確認し、彼は飛ばし飛ばしだが、いくつかのコーヒー名を読み上げた。
「エスプレッソ、カフェラテ、カフェオレ、カフェモカ、カプチーノ。その他に何種類かそこに書いてあるコーヒーには、ミルクがたっぷり入っているんだ」
「こんなにあるの?」
少女は純粋な興味を示していた。今までコーヒーとは大人の飲み物で、通常はブラックで頼むのが「大人のやり方」なのだと思っていた。そしてミルクや砂糖が入っているのは、市販の牛乳パックで売っているお子様用のカフェオレだと強く認識していたのだ。だから店長に教えてもらったミルク入りコーヒーのラインアップは、少女の常識を覆す新たな情報だった。