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【CDC企画】The Premium Edition

第2章 Carré Lait(芳村)


と言うのも、その女性は白いワンピースを上品に着こなし、片手にブラックコーヒーを持ちながら、もう片方の手に分厚い小説を所持していたからである。赤縁のメガネも手伝ってか、いかにも文学的な要素を醸し出している。髪の毛だけは紫色で奇抜なのだが、そんな見た目を上回る女性らしさが、少女の心を惹きつけた。

あんな大人になりたい。そう一瞬で心から思えるような、理想的な女性だったのだ。

そんな憧れを胸に抱きながら見つめていれば、どうやら相手に視線を気づかれてしまったらしい。ふと女性がこちらを向き、目が合ってしまったのだ。失礼な事をしたと少女は慌てるが、そんなあたふたした様子を見ていた女性は、微笑ましそうに口角を上げる。その笑顔もまた、慈愛に満ちた優しい表情であり、少女の憧れを膨らませるのであった。

だが次第に女性から見られている事が恥ずかしくなり、少女はカウンターに向かってきちんと座り直す。座高をなるべく高くするように背を伸ばし、緊張な面持ちで女性に見られている事を意識してしまう。だがそんな羞恥も、店長に差し出されたコーヒーによって吹き飛んだ。

「どうぞ」

コトリ、と目の前に置かれたそれは、ゆらりゆらりと揺れる濃い色の飲み物。その色に負けず劣らず、濃い香りが立ち込める。少女にとっては人生初のコーヒー。自分が大人である事を母に証明する為の一杯だ。先ほどとは別の意味で緊張をしながら、彼女はそれを一気に口へと含む。

「……っうぬ」

ゴクリと飲み込んだものの、想像以上の苦さに間抜けな声を漏らしてしまう。その上、表情までもが素直に歪んでしまった。

「少し、苦かったかな?」

「そんな事ないです! わたし、大人なんです。だから飲めますよ」

少女の様子を見守っていた芳村が軽く尋ねたのだが、どうやらそれが仇となったようだ。本当はとても苦いにも関わらず、意地になった彼女は無理してもう一口ほどゴクリと飲み干す。嫌なのは明白なのだが、どうやら自分が大人である事を証明したいと言うのは、芳村にも何となく伝わる。それを考慮し、芳村はカウンターの後ろで何か作業を始めた。だがあまり時間のかからない作業だったようで、すぐに店長は少女に何かを差し出す。
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