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【CDC企画】The Premium Edition

第2章 Carré Lait(芳村)



「あの、このクーポンが使えるコーヒーください!」

突然の出来事に少し驚きながらも、その初老……いや、「あんていく」の店主である芳村は、冷静に画面を見つめる。どうやら少女が提示してきたクーポンとやらは、半年ほど前に期間限定で行われた町おこしの時の物らしい。

喰種(グール)による事件が近辺で起こり、この一帯にある店の客足が減った事が問題となったのが発端だ。なんとか客を取り戻そうと近くの店とも協力し、この地域で使えるクーポンを発行、そしてPRした時のメールである。

三ヶ月のみの期間限定で行われていたのだが、どうやら少女はまだそれが有効だと勘違いしているらしい。少女が必死に見せてくるそのクーポンも、とうの昔に期限切れとなっている。

しかし何か事情を持っているのだろう。芳村は不釣り合いな店に来て、不釣り合いな注文をしてきた少女を見て、何かを察したかのように笑みを浮かべた。そして彼女の注文を了承し、カウンター席を勧める。

注文を承ってくれた芳村に一安心し、少女も少女でホッとした笑みをしながら携帯をポケットに仕舞った。少女にとっては高めの椅子ではあったが、よじ登るように何とか腰を下せば、キョロキョロと店内を見回した。

改めて内装を見れば、とても雰囲気の持っている店である。店の配色はどれもコーヒーを意識した配色であり、無駄なものは一切ない。外を眺める為の窓はとても大きく、太陽の光を取り込んでいる。ベランダで育てられている植物も見る人の目に自然な彩りを加え、殺風景な感じを消し去っていた。

あえて何かを指摘するならば、客の少なさだろうか。少女の他に客は一人しかおらず、広い店内はガラリとした空間になっている。従業員も初老の芳村しかおらず、忙しいとは程遠い環境だ。携帯メールには「人気店」と紹介されただけあって、少し拍子抜けだった。実際は客のくる時間帯からずれているだけで、人気には代わりないのだが、世間を見たままでしか判断できない少女は知る由もなかった。

そうした純粋に物事を見る彼女は、もう一人の来客に興味をそそられる。視線の先には窓際の丸いテーブルに座っている女性。とても清楚で知的な印象を受けた。

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