第28章 別れの日【土方十四郎】
凛は鬼に恋をしていた。
そしてその鬼も一人の女性に恋心を抱いていた。
「出掛けてくる。」
「どちらへ行かれるんですか。土方さん。」
「……野暮用だ。」
「私も行きます。」
凛は真選組副長付きの小姓。
いつでも副長のお側にいるのが務め。
「いや、一人でいい。」
「嘘です。山崎さんもいるんでしょう。私も行きます。」
でもそんなのは口実に過ぎない。
ただ好きな人の側にいたいだけ。
「お前は……来るな。命の保障は無ぇ。」
だが凛の想い人は、凛の為ではなく、自身の想い人のために身を危険の中に投じようとしている。
沖田総悟の姉、ミツバさんのために。
「沖田さんには、言わないんですか。」
「俺一人で事足りる。」
嘘だ。
きっと向かう先はミツバさんの婚約者の元。
真選組副長として、そして女性を想う一人の男として蔵場を倒しに行くんだ。
「副長一人に全責任を背負わせたりしません。私は…土方副長の小姓ですから。」
頑として譲らない。
そんな凛の姿勢に土方は折れた。
「……山崎の側から絶対離れんじゃねーぞ。」