第13章 初雪【高杉晋助】
高杉は、何か事件を起こした後凛のいる店に来るのが習慣となっていた。
「…………フゥ…ッ。」
煙を吐き出して横目で凛をチラリと見る。
凛は明るく光る月をジッと見つめていた。
「(目下に広がる華やかな吉原ではなく、月を見るか。)」
自然を愛しているのだろう。
その感性を持つ凛に高杉はとても好感を持てた。
「…………ん…。」
ふと自分の胸元から血の匂いがした。
綺麗にしたつもりだったが、洗い残りがあったようだ。
「(この匂い…こいつも気づいているだろうな。)」
凛が馬鹿じゃないことはよく分かっている。
血の匂いに気づいているはずだ。
「(相変わらず何も聞かないんだな。)」
事情があることを分かっていながら何も聞いてこない所も高杉は気に入っていた。
『なぜ何も訊ねない。』
一度だけ凛にそう問いかけた事がある。
その返事はとても聡明なものだった。
『聞いて知った所で、私は何も出来ませんもの。』
凛にも出来る用があればその都度言う。
無駄を嫌う高杉の性格を知った上で何も聞かなかったのだ。