第13章 初雪【高杉晋助】
「ようこそ、おいでくださいました。」
凛は顔を上げ、座敷の中央で優雅な雰囲気を醸し出している男を見上げる。
「このような"陰"によくいらっしゃいますね。」
男は口角を少しだけ上げた。
「俺も訳ありの身だ。丁度いい。」
「……左様でございますか。ではその都合に甘えて、このもの寂しい店を少しでも潤していただく事といたしましょう。」
男の"訳"とやらを聞くこともせず、凛はゆっくりと男の元へ歩み寄った。
凛がいる店は、日輪がいる吉原の中心から遠い所にある。
故に客足も悪い。
そんな所に働きにくる女もほとんどいない。
よって経営は悪くなるばかりで、そこで働き続ける物好きは凛くらいのものだ。
どれだけ給金が少なくても、ここで働き続ける理由……
それがこの男。
「高杉様。どうぞ。」
高杉が持ったお猪口に、凛は徳利を傾けて酒をトクトクと注いだ。