第1章 慶応三年二月一日
山崎は屯所へ戻ると、その足で土方の部屋へと向かう。途中、お茶を淹れてきた千鶴に出会う。
「あ、山崎さんお帰りなさい」
「ああ、雪村君それは副長の所へ?」
「はい、そうです。土方さん朝からずっと根をつめていらっしゃるので」
休憩も必要だというのだろう。盆の上には湯気を上げる湯呑みと、干菓子の乗った皿が置かれている。
「ならば丁度いい。俺も一緒に行こう」
二人で土方の部屋の前まで来ると、山崎が短く声をかける。
「副長」
「山崎か、入れ」
「失礼します」
山崎に続いて入室してきた千鶴に、土方は声をかける。
「千鶴、どうした?」
「少しは休憩なさらないと効率も上がりませんよ?」
土方は小さく肩をすくめ、湯呑みを受け取りお茶に口をつけた。
「で、どうだった七条は」
「変わりありません」
「そうか…」
この短いやりとりだけで土方は何も収穫がなかった事を察していた。
伊東派が不穏な動きを見せている今、何か有益な情報を引き出すことが出来ればそれだけ有利に動ける。だが実桜は頑として彼等にとっての「未来」を話そうとしない。三年以上続いてきた根比べはまだまだ続きそうである。