第1章 慶応三年二月一日
「ついこの間お正月を迎えたばかりだと思っていたのにもう二月なんて、月日の経つのは早いですね」
「ああ、そうだな」
「歳をとると一年の体感速度がどんどん早くなっていくって本当なんですね」
「君はまだ18だろう。そんな年寄じみたことを言うものではないと思うが」
「いやいや、18はもういい歳ですって。若い娘には敵いません」
わざと戯けて言う実桜に、山崎は僅かに眉根を寄せる。その僅かな変化すら見逃さず、今度はわざと不機嫌そうに呟いた。
「山崎さん今まったくだって思ったでしょう」
「いや、そんなことはない。それに年齢など若ければいいというものでもないだろう」
山崎はやれやれと半ば呆れ顔になったが、すぐにいつも通りに戻り続け問う。
「それより何か不足しているものはないか?あるなら用意するが」
「不足しているものはありません…あ」
何か思いついたように目を見開くと、山崎の方を伺いながら言いにくそうな顔をした。
「どうした?何か困り事か?」
「あの…困り事ではないんですがお願いがあります。お仕事が無かったらでいいので十四日になったらまた来てもらえませんか?それと、近いうちに千鶴ちゃんにここに寄ってもらえるように頼んでほしいんです」
「それは構わないが雪村君の件は保証出来ない」
「ほんの少しでいいんです。巡察に同行した帰りにでも寄ってもらえるように。お願いします」
「…分かった。雪村君に頼んでみよう」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑う実桜に対して山崎はどこか複雑そうな色を顔に浮かべていた。