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【CDC企画】冬の贈り物

第5章 慶応三年二月十四日


夜明け前に目が覚めてしまったこともあって、実桜はいささか時間を持て余していた。掃除は既に済んでいる。上菓子屋も先程配達に来てくれた。準備は整っているが、肝心の山崎はいつ来るのかもわからない。否、来てくれるのかどうかもわからないのだ。

バレンタインデーの話は山崎にも伝わっているだろう。迷惑に思って来ないかもしれない。そもそも彼は優秀であるが故に自分の世話役を仰せつかっているのだ。他の重要な任務を任されれば、そちらを優先するだろう。不安が故に実桜の思考はどんどん後ろ向きになる。彼は約束を破るような人ではないと己に言い聞かせて、実桜はじっと待っていた。

昼が過ぎ、日も暮れかけてきたので早めの夕食をとる。さすがにこの時刻になっては諦めも出てきたが、手早く片付けてまた山崎を待つ。今日はまだ終わっていない。一縷の望みがあるのならと、沈み込む心を奮い立たせる。いつの間にか空には星が瞬いていた。

障子窓を少しだけ開けて、実桜は星空を眺めていた。月が出ているとはいえ、元いた東京の空とは比べ物にならない数の星が輝いている。その中で一番光る大きな星に願いをかける。どうか彼が来てくれますように、と。

どれくらいそうしていただろうか。ふと縁側の方に何かがいる気配がした。野良猫でも迷い込んできたのか。だが、もしかしたら山崎かもしれない。実桜は急いで縁側へと向かった。
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